前座の調理説明の中で
水気をしぼる
ちゅう表現が多数でてまいりますが 「水気をしぼる」 で、思い出す人物がいます。 修行時代の2年下の後輩で、その名を「T」という。とにかく記録魔でノートとボールペンを常に携帯し、事あるごとになにやら書き留めているという、まぁ勉強熱心といえばそう言えなくもありませんが、私は「単なる変わり者」と当初そう思っていたのですが、その三年後彼の恐ろしさを思いしらされる事になろうとは・・・。 Tが入店後すぐに誰もが彼のおかしな行動に気付き、というのはつまり記録魔に関することですが
という彼はロッキード事件の小佐野氏の答弁をすべて覚えていたり、高校野球の各年度の優勝校はもちろんベスト8以上のチームのバッテリーの氏名まで暗唱するという離れ業をやってのけるのでした。 しかも音声ガイダンスのような抑揚のない声でそらんじ始めるので鳥肌ものでした。 そうそう水気をしぼるについてですが、仕事中のある時。
と、まぁ漫才のネタのように思われるかもしれませんが紛れもない事実です。 しかもこのようなやりとりは日常茶飯事で枚挙に暇がありません。 その彼の記録ノートというのはB5の半分ぐらいの大学ノートで1ヶ月ほどで書ききってしまうそうです。 そんな大事な、そう彼にとっては大事なノートをある時、調理場に置いたままどこかに出かけて行ったのです。 皆何が書いてあるのかと(悪い気もしましたが、好奇心には勝てず)中を見てみますと、案の定書いて記録するに値する項目はほとんどありませんでした。 しかし その中で調理場の人間の名前がズラーッと書いてあり、その横に「正」の文字で何やらカウントがつけられているページがありました。 人によっては40いくつもカウントされていたり、ゼロの人がいたりと訳がわかりません。 そこでTと同期の子に意味を探らせたところT曰く 「嫌な事させられたり、言われたりしたときに一本づつ書いていく表」 だったのです。 ちなみに私はゼロだったので安心しましたが、40いくつカウントされている人などは 「ゾーッ!」 としておりました。 しかし私も結構きつい言い方もしてるのになぁと不思議に思いTに尋ねると 「清水さんはー、好きなのでチェック入れません!エヘ!」 出前箱を肩に担ぎひょこひょこ歩いていたのです。 「Tッ!」 と名を呼ぶと出前箱を落としそうになるほどの慌てぶりでキョロキョロしているので
彼は結局、記録を記憶に変える達人でありその努力たるや常人のなせる技ではありません。(その努力、気力、料理の方に向けて欲しい) 今ごろはどこの料理店で記録をつけているのやら。 袖触り合うも多生の縁といいますが、同じ釜の飯を喰った仲ですのでなんとか普通の料理人になって欲しいと切実に願っております。 |