1月の料理 「天麩羅」




〜調理における求道のコツ・その壱〜



さて、本年第一回目ということで「どないしよ(どうするべきか)」と迷いに迷い、素材もこれちゅうのが思い当たらず、なのに昨年の12月は忘年会のお客さま、また観光のお客様も多く、年末はおせち料理に追いまくられ(おせち料理にまつわるお話、お時間のございます方はお読みください。)「はよしなあかん(早くしなければだめ)」と思えば思うほど深みにはまり、ついに思いついたのが
今年、私は(井山氏はいざ知らず)「調理における求道のコツ」シリーズで一年を乗り切ろう
かとふと思いたったのであります。

まず今回は「天麩羅」。
天麩羅を食されたお客様が、よく 「家ではこんなうまい具合に揚がらない」 とおっしゃります。
その謎を求道が解き明かします。
・・・「犯人は貴方だぁ!」 というコーナーとちゃいましたな。失礼をば。

それでは後ほど。

まず私の天麩羅の思い出をお読みくださりませ。

私、天麩羅は少々自信がございます。その昔、そう、時はバブル華やかしき頃、大阪の某有名ホテルでは毎日数組の結婚披露宴ではない宴会がございました。
その多くは「創立○○年記念パーティー」「○○先生の○○を祝う会」または政治家のパーティーなどなど、やはり景気がよかったのですね当時は。

して、そういう立食パーティーになりますと必ず、寿司や天麩羅の屋台が出るわけですが、私はその屋台で何十回天麩羅を揚げましたことか。

そういう場合の天麩羅は海老が3本に青唐2本というのがベーシックでして、それをひとつの屋台で300人前揚げます。
つまり海老を900本も揚げるわけです。
しかもパーティーはおおむね2時間と時間が決まっており、最初の主催者の挨拶やら来賓の挨拶やら乾杯の音頭などを引きますと実質90分。
つまり90分で900本の海老を揚げなくてはならないのです。
もちろん専用の銅製の大鍋ではありますが、温度が下がりすぎるとうまく揚がらないので一回に油に入れる海老は30本。
それを30回繰り返すわけですから一回に許される時間は3分。
しかも盛り付けもひとりでこなします。
青唐はパーティーが始る前に揚げ置きしてあるので海老と青唐を次の海老を放り込んだとたん盛り付け、盛り付けが出来たとたん海老が揚がっていると、まぁ忙しいこと忙しいこと。

しかし、おかげさまで天麩羅に関しましては温度の具合などは音で分かるようになりましたし、海老を鍋に放り込む速度などは忍者が手裏剣を投げるように シュシュシュ と手の動きの残像が見えるほどの速さでございます。
(ちょっと嘘つきました)

そんな貴重な体験の中
もっとも思い出に残っているある出来事がございます。
あれは政治家のパーティーだったのですが、その手のパーティーは人数が3000人とかいう膨大なお客様の数が常で、しかも半数はご婦人方、しかも大阪の。
タッパ持って 「おにいちゃん、これに詰めてぇーな」 なんていうのは日常茶飯事でして、そのお姿はたくましいと云いますかぁ・・・ へぇー と目が点になります。

そんな中、事件は起こったのです。

議員さんの乾杯が発声され「ごゆっくりご歓談ください」のアナウンスと共にまるでバッファローの大移動のような勢いでこちらに向かって来られるご婦人方。
恐怖で正視することが出来ず慌てて海老を揚げ始めたのでした。
「おにいちゃん、これにはいるだけ入れて」 と一番乗りのご婦人が案の上、タッパを差し出されたのでした。
続く続くご婦人方。

その最中
痛い痛い痛い痛い痛いー、ちょっとぅ!
お宅!足踏んでるやないの!痛いわ、もう、あー痛!!


横目でその様子を見ながら「痛い」って7回も言わはったなぁと妙な事に感心していると、いつの間にやら油の温度が下がっていました。

えっ?と火を見ると「消火、よーし」と消えているではないですか。
・・そんなあほな、こらあかんわえらいことになった・・・
と、すぐに火をつけましたがつきません。ガスのシューという音さえしていません。
ガスの元栓か?と見に行くと問題なし。

はぁー???

「ちょっと、おにいちゃん何時になったら揚がるんえ、となりの屋台もう食べたはるやないの、はよしてぇーな」
「すいません、ちょっと火がつきませんのでとなりの屋台に並び替えていただけますか?」
「何言うてんのあんた、私一番にここに来て並んだのに、となりに移ったらものすご待たな(すごく長く待たなければ)あかんやないの、なんとかしいな(なんとかしなさい)

並んでおられるご婦人方に非難の燃えるような視線を浴びせられ、あたふたと私は原因を探るため元栓からホースをたどっていきました。

すると屋台からガス台に上がるところのホースを・・・
がぁーーーーーーーー
おばはんっ!ガスホース踏んどるやないけぇ!


なんとあの先頭のご婦人が踏んでおられました。
しかし、先のような暴言は私の心の中の雄たけびであって声になっておらず
「お客さま、申し訳ございませんがちょっとガスホースをお踏みになられているようですので見ていただけますか」
「いや、かなんわー、絨毯がふかふかやさかいに踏んでるのか踏んでへんのか、わからへんだわ、なあ奥さん、いややわ」
と、7連発痛い口撃を浴びせたご婦人に平気で同意を求めるその神経。
感服いたしました。
ぐぅーの音もでませんでした。

気を取り直し火をつけ再度海老を揚げだしましたが、一旦温度の下がった油ではなかなかうまく揚がらず、しかし、相変わらずの熱視線を意識するあまり もう30秒が辛抱出来ず、こんなもんで揚げるという妥協を重ねた結果、最後まで納得のいくような天麩羅は揚げられませんでした。

それもこれもあのおば・・・、いえいえ私の未熟ゆえの事でございました。

ちなみに先頭のご婦人は、これをお読み頂きました皆様の予想を裏切ることなく一回目の10人前、おひとりでお持ち帰りになりました。
少しは遠慮されるかと思ったのですが・・・

なんのなん!の平気の平助!屁の河童でございました。

無敵!大阪のおばちゃん!




ご存知とは思いますけど基本的な天麩羅の揚げ方
1

海老は皮を剥き左写真のように包丁目を入れて表返して両方の指先で(右写真)つかむようにしながら軽く押し背筋の筋を切る。「プチ、プチ」と音がします。
烏賊は皮がはじけないように包丁目を入れ、白身魚は一口サイズに切り分けます。
2 野菜などは一口、または食べやすい大きさに切り分る。
3 玉子の黄身1個につき300ccの水の割合で玉子水を作ります。
そこに薄力小麦粉を混ぜ込みます。大体混ぜる玉子水と同量よりやや少なめ程度を目安に。
4 仕込みした素材に小麦粉を薄くつけます。
5 [3]で作った衣に[4]の素材を漬け適温に熱した油の中に入れていきます。
6 泡の出が少なくなり衣がカリッとしたら、油取り紙の上に揚げる。
召し上がり方
出汁4 みりん1 淡口醤油0.5 濃口醤油0.5 味の素少々
の割合で天出汁(一般的には天つゆ)を作り、 大根おろし 、お好みで すり生姜 などを入れ、召し上がっていただく。
またはレモンなどを搾り、塩で食べていただくのも結構です。 

それぞれの作業にそれぞれの求道があります。


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どうです?
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ほんのちょっとの気遣いでカリッとパリッとサクッと揚がる!


はずなんですけど・・・

保証はいたしかねますが・・・

なんせ天麩羅はやはり慣れが必要というか、経験が必要というか・・・


結局、美味い天麩羅は料理屋でお召し上がりください!
(これが言いたかっただけなのかも)



五条料理飲食業組合  割烹三栄 若主人 清水敏夫







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