器は愉し
器は使ってこそ

魯山人の弟子で平野雅章氏の文章だったと思うのですが、かつて魯山人は大雅堂という骨董品店の二階で暮らしていた折、金が無いと豆腐ばっかり食べていたのですが、それを見て大変贅沢な暮らしをしていると言われたそうです。なぜかと言うと骨董品のギヤマンの器を使って安物の豆腐を食べていたからです。
 皆さんも良い器に綺麗に盛り付けられた料理に感動された事が有るのではないか思います。魯山人の語録に「良い料理には盛り方の美しさ、色彩の清鮮、包丁の冴え、すぐれた容器との調和、それらに対する審美眼がなくてはならない。また、佳味を賞している席、即ち建築物に就いての審美眼がなくてはならない。さらに林泉の幽趣、あるいはその境の山水に対する審美眼もなくてはならない。」と記されています。してみると建物や風景も器のひとつと言い得るのではないでしょうか。

 今は、世の中に安価な大量生産の器が増えすぎて、その弊害か手の温もりや愛着を感じさせてくれるような良い器は結構高価になってしまいました。瀬戸の中尾郁夫さんの器は私が子供のころにあちこちで見かけたような器で、やわらかなボディーにセンスの良い絵を乗せた染付けを作られてます。昔はこんな器がたくさんあったのに今はつくづく心の和む器が減ってしまったなぁと思います。

 私の体験談ですが昭和61年大阪のセントラルギャラリーの器展で備前の金重晃介氏の向附けを求めました。直径20センチ程の馬たらい形に三つ足があってゴマが裏側から掛かって、何でも盛りたくなる景色のある器でした。家へ持って帰り家内に一通りうんちくを述べた後、「この器に似合う料理を作って」と預けました。
 困ったのは家内です。いろんな料理の本や盛り付けの手本を見て
3日間同じ皿で違った料理を作ってくれました。この日を境に家内は料理に対する取り組みが一変して、すばらしく料理の腕前が上がりました。以前は料理の味がもう一つでしたので、良い皿でおいしい料理が食べれるようになって私にとっては大収穫でした。もし、同じ悩みをお持ちでしたら、一度お試しになることをお勧めします。

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愛着の一品

 次は酒呑みの話ですが、私と同様に酒盃を集めている仲間がおりまして、その方と盃を持ち寄って夜遅くまで酒会をしたものです。相当有名な作家さんの盃なども手に入れ交互に飲み交わしておりました。
 そんな折に唐津の西岡小十先生の盃をある陶芸家の方を通して手に入れることが出来ました。大変綺麗な朝鮮唐津で大変気に入りました。それから異変が起こったのです。
30個ほど持っていた盃のほとんどが箱に入ったままになってしまったのです。
 その理由は、お酒を飲むときに無意識でもう小十の盃を握っているのです。意識して他の盃を使っても
2杯も飲むうちにもう小十の盃を握っているのでした。その後、料理人の方に試してもらいますと“同じ酒なのに味が変わるとびっくりされ自分でも得心できました。こればかりは文章では表現出来ませんので、是非飲んで体験していただきたいものです。この後、平成4年まで毎年、毎年分けていただくことができ小十コレクションができました。ほかの品はほとんど手放しましたが大変満足してます。

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佳き友、良き器

 日本の陶器が美術品として高い価値を持っているのはその背景に茶の湯の世界があるからです。外国にもマイセンやロイヤルコペンハーゲン等の有名な工房はありますが、これらは王室ご用達のお揃いの食器を作る技術に優れていたにすぎません。利休が長次郎に作らせた楽茶碗は、茶の湯の為の器で高い精神性と深い宇宙観(仏教感)を内蔵しております。“無一物中無尽蔵”と言う茶碗の銘にもそのことを表しております。千利休も禅の修業をした禅僧です。したがって茶の世界もまた仏の精神と言うものを基盤にしています。陶器と言う無機物でありながらそこに有機物のような生命感を感じさせ、そのたたずまいから高い品格を感じさせます。これらを備えた器が幾世にもわたり伝世されていく器となっていくのです。

 こうした器(良い器)はじっと眺めて心地よい、手になじんで心地よい、口に触れて心地よい、触れられる美術品じゃないかと思ってます。

 いろいろ勝手に書かせて頂きましたが、まだまだ私の器の愉しみは現在進行形です。また続編が書けますように一層精進を重ねてまいります。最後に魯山人の語録から「益友を持つこと、座右の書物、道具、調度もまた益友の一人である。座右にいいものを置くように心がける。」   

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辨天堂 岡本喜雅
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