クリちゃんごめんネ、そしてありがとう
 クリちゃんと言うのは実は真っ白な手乗り文鳥のことです。今から、7年前に私共の一人娘が中学校入学を期に小鳥屋さんで購入したものです.

 それは小鳥屋さんで何十匹と居る白い羽の手乗り文鳥の中で、一際愛らしく見えた、生後1ヶ月余りの小鳥でした。

 そして、直ぐに購入することにしました。名前は何故か娘がクリスティーと名付けましたが、その内、面倒臭くなって皆がクリちゃんと呼ぶようになりました。

 家に来た時はそれこそ、ハッキリと目も見えない状態で、真っ直ぐに飛ぶ事も出来ません。丁度人間の赤ん坊がハイハイする様に、小鳥もヨタヨタとヨロケながら飛ぶんですネ、その姿が本当に可愛くて...

 それから1ヶ月程経つと、自分でも判っているのでしょうか、クリちゃんと呼ぶと、チュンと鳴きます。人指し指を差し出すと指に止まろうとして、勢い良く飛んできます。その姿がある意味では忠実で、そして本当にかわいくていとおしく感じました。
 そんなある日、私と家内と、そして娘との三人が一斉にクリちゃんと呼んで人差し指を差し出します。すると二人には見向きもせず、真っ直ぐに娘の指に止まります。

 それからは、何度やっても何日やっても同じ事です。家内に言わせると、目が見えるようになって初めて見たのが、娘だったんや、それで娘のことを自分の親と思っているのやと言う事でした。(本間かいな?)

 そうこうしている内に、3年経ち、娘も高校生になり、そして更に3年、あっと言う間に大学生。もうその頃には午後6時55分になるとチュンチュンチュンと激しく鳴き出し、両足で地団駄を踏んで、五月蝿い位鳴きまくります。

 なんと店の閉店時間が判るようになったのです。毎日、午後7時に店を閉めると家内が鳥篭を開け放ち、クリちゃんを自由にさせます。クリちゃんも我が物顔で店から事務所、台所、そして2階へと元気良く、飛び回ります。

 1時間余り自分なりに遊び回ると得心したのか、自ら鳥篭へ入り、そして餌を食べます。

 それから、また暫くすると、おもむろに飛び立ち、台所の蛇口に止まって、今度はチュンチュンチュンと水浴びの催促、荒い桶に水を張ると気持ち良さそうにバチャバチャと羽根を震わし、当たり一面水浸し、そして満足したのか、再び自ら鳥篭へ、こんな毎日の繰り返しでした。

 そして、1年位前から家内がクリちゃんを鳥篭ごと閉店まで店頭に連れ出してからと言うもの、お客様の間では青雲堂のアイドルとなりました。 
クリちゃん
 家内もクリちゃんに“クリちゃん、今日はお店暇やゎ”と言うと、クリちゃんもチュンチュンと応えます。

 また、ある日“クリちゃんどうしよう?”と家内が相談すると首を左右に傾けて、何か考えている様な仕草をします。

 私も夜遅くまで事務所で仕事をし、帰宅する時にクリちゃんの鳥篭を覆ってある布を少し捲り上げて、中を覗き込みお休みと声を掛けると、チュンと言ってクリちゃんが巣から顔を出してくれます。何か、人間みたいやなぁ、この鳥は自分の事を鳥とは思ってへんのんと違うかとか、そんな事をよく家族で話していました。 
       
 しかし、最近は年の性かあまり飛び回らず、床の上を歩行することが増えてきました。

 そんな矢先、忘れもしない4月19日、珍しく飲み会から早く帰宅した私は、娘と一緒に新しく買ったばかりのノートパソコンのセットアップをしておりました。

 クリちゃんは、いつも通りの自由時間で私達のところへ飛んできては、パソコンのキーボードに止まって作業の邪魔をしたり、また、私の肩先に止まり、糞をしたりと自由奔放に振舞っていました。

 暫くすると、久し振りに叔父から電話があり、近くの店で飲み会があったので、帰りに我が家に寄るとの事、程なくチャイムが鳴り、叔父がほろ酔い気分で居間に入って来ます。

 娘も今日は愛想良く、叔父にビールの用意をしています。私も程ほどにパソコンのセットアップを切り上げ、居間の椅子に腰を下ろします。

 するとチュンと言う泣き声、何と私の座っている椅子と足の付け根の隙間にクリちゃんが挟まっていたのです。

 びっくりして、腰を浮かした瞬間クリちゃんは飛び立ち、向かい側の叔父の足元へ、私がテーブルの下を覗き込み、“クリちゃん叔父さんとこやぁ”と言った時、何と言う事でしょう、叔父が探そうとして立ち上がった瞬間、全く気付かずに、本当に運悪くクリちゃんを踏んでしまいました。

 ア〜ッと言う間も無くクリちゃんはその瞬間パタッと倒れ一言も鳴かずにじっとしています。

 慌てて娘が手に取りましたが、もう既に事切れていました。何と哀れな最期でしょう。

 その後、叔父も居た堪れなくなり、黙って帰って行きました。

 それからは、三人でクリちゃんのお通夜です。皆、人憚る事無く涙を流し泣いています。

 翌日は朝から雨、娘はアルバイトの為、クリちゃんと最後の別れをして出て行きます。

 私と家内とは相談の上、ご先祖のお墓の横の空き地にクリちゃんを埋葬することにしました。

 クリちゃんが好きだったヨーグルトといつもの餌そして、花束とを持って雨の降り頻る中墓地へと向かいます。

 しかし、不思議なことに墓地に付くや雨が止みました。そして、スコップで穴を掘り、白い布で包まれたクリちゃんを今一度拝み数珠と一緒に埋葬します。その上から、餌とヨーグルト... その瞬間、止め処なく2人とも涙が流れ落ち、号泣する有様です。 

 他の人がこんな有様を目にしたり、耳にしたら恐らく、“たかが小鳥位でアホかいな”と言われると思います。

 当然今までの自分なら同じ様に言っただろうと思います。でも、本当に悲しいのです。本当に可哀想なんです。

 小さいから?不慮の事故で死んだから?寿命を全とう出来なかったから?いろいろと考えてみました。

 もし、金魚だったらこんなに悲しんだ?犬だったらもっと悲しいのと違うかな?とか...

 結局は、やっぱり、毎日触れ合い知らず知らずの内に、家族全員が癒されていた、そして、何よりもペットと言うよりも家族の一員だったのです。

 クリちゃんが死んでから、二日目の朝、綺麗に掃除したばかりなのに、鳥篭の中には白い羽根と餌の食べこぼしが落ちていました。

 そして、家内は夜、何度となくチュンチュンと言うクリちゃんの鳴き声を聞くそうです。

 信じられない様な出来事ですが、こんな事ってあるんですネ、あれから一週間は家族皆が溜息ばりつく有様で、最近ようやく気分も落ち着いてきました。
 今の世の中、不況の影響からなのか皆イライラして、心がカサカサに乾き切っているそんな中で、生命の尊さを再認識し、ふと人間性を取り戻した出来事でした。

  こんなお話に最後までお付き合いいただきありがとうございました。   

クリちゃんごめんネ そして本当にありがとう。

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