うなぎ伝説   弐話

 
祇園辰巳橋の側、細い路地の奥に「望月」という町家がある。


 陶変木人と会うのは、四条の京のきもの屋で『フランス料理と京の器』という展示 会をして以来、何年ぶりのこと。

路地の格子を開けると、打ち水がされた石畳が続く。

そこには時間の止まった祇園町があった。

「こんばんわ」
曇りガラスの町家の格子戸をそっと開けると、品のよい、ふくよかな女将が待ってい た。

「陶変木人先生もうおこしどすえ」
ギシギシと音をたてながら二階にあがると、
「春の桜の辰巳橋もええけど、紅葉した桜の葉もええな。季節ごとの桜見は、数寄 や」

薄暗いはだか電球の下に、彼はいた。

「山岡はん。あんたもこっちへ来て見とうみ」
「はい」
  「祇園の桜は、ここが一番や」  
格子戸の開く音が聞えた。

「お連れさん、おこしどすえ」
  「こんばんわ」
  「はぜどん、朝も遅いけど晩も遅いな!」
  「すんまへん」

  「紹介しときます、こちら陶変木人さん。仕事は陶器関係やけど、ほんまは何した はるかわからへん人や」
「陶変木人はん。山岡さんがうなぎの季節は、秋やと言わはったんやけど、ほんま ですか」
「結論からいうと、秋や!」
「そやけど、夏が旬といわはるうなぎ屋さんは多いのと違いますか」
「昔は、今と違ってうなぎが脂濃い食べものやったんや。あんまり夏にはうなぎは たべなかったんや。そこで土用の丑の日ができる訳や」
「土用の丑の日が出来た話はこの間ききました」
「天然うなぎは海で生まれ、川で育って海に帰る。秋に川を下って海に入って行く うなぎを“下りうなぎ”といって珍重されたものや。秋になると産卵の為にまるまる と太ったうなぎが河口付近でたくさん漁れた」
「そうか、それでうなぎは『秋が旬』というのが正しいのんや」

 


うなぎ屋の暖簾をかき分けて
「おやじ、一人前とお酒一本」   と言いながら二階に上がると、広間と小部屋がふたつ。
五分ばかりして、浅漬けの大根、古漬けの茄子を肴に熱めのお酒がでる。
うなぎ屋は、三、四十分待たないと蒲焼は出て来ない。
肴は漬け物のにかぎる。
酒一合を楽しんでいる内に白焼きうなぎが一切れ、そこでもう一本。

「うなぎ丼がでると酒は呑まない、それと漬け物は一切れ残しておく。うなぎ丼は 温かい内に食し、一口のごはんと蒲焼を少々残す」
「なんで」
「最後に一口のごはんと蒲焼で茶漬けをする。そのために漬け物をのこしておく。 お茶は番茶に限る。口の中もさっぱりするし丼に残ったタレやごはんもたべられる」
「すごい!こんどからそうしよう」

「陶変木人さん。関東風、関西風はどのあたりが境なんですか」
「名古屋は関西風、豊橋は関東風。関西風は腹開きで地焼き、関東風は背開きで蒸 して焼く、ところが三河岡崎では東西が混ざり背開きで地焼きという処がある」
 



  近年、京都では関西風のうなぎ丼屋を見なくなった。大半の店が関東風である、京 都の七不思議の一つ。

 うなぎの包丁は関東、名古屋、京都、大阪、九州の五種類に分かれる。特に京都は 京包丁と呼ばれ特異な型をしている。
江戸包丁
名古屋包丁
京包丁
大阪包丁
九州包丁
 包丁が分かれているようにうなぎ丼も地方によって形が違う。
名古屋では 『ひつまぶし』 九州では 『せいろ蒸し』 そして 関東風、関西風うなぎ丼。

ひつまぶしはタレをまぶしたごはんを小さなおひつに入れ、
 細かく切った蒲焼を上にのせる。
 それを飯茶碗に取り分けて食し、最後の一膳はねぎなどの薬味をのせて茶漬けにする。

せいろ蒸しは、福岡柳川で生まれた。
 タレをかけたごはんをせいろに入れ蒲焼をのせて蒸す方法で丼とは違う形態である。
 おもしろいのはうなぎの焼き方である。ここではうなぎに串を打つことはしない、一尾、一尾箸で挟んで焼く。
 箸でひっくり返しながら蒲焼を焼くのは相当難しい。

地方によって色々の調理方法、道具、食べ方があり、そこには地方独特の文化が存在する。

「はぜどん、京都本来の蒲焼の焼き方や食し方を残していくべきうなぎ丼屋さんが少なくなっていくのは寂しいもんや」
 「はい」 「此処、望月は古い町家を再生しやはったんや。祇園の町家経営の新しい方法をとり、京都の文化を大切に守ったはるんや」
 「高いんでしょ」
「会員制で一見さんおことわり。
でも、紹介があれば誰でも席を借りられるシステムにはなっている」

 「紹介してもう!」

「陶変木人さん次の展示会はここでしたね」
     「二年後の秋の予定です。それまでにええ季節に陶器の話でもしましょう」

「あ!おもいだした。来年の春3月末に作品展をするのや!!」

  「何処でするんですか?」

  「錦市場でします!山岡はんもはせどんも案内出しますさかい、見に来て下さい」

  「ぜったいいきますわ!な、山岡さん」

  「楽しみにしてます」

つづく・・・


第壱話もどうぞ

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