『酒を飲まない方に酒を売る』  吟醸酒房油長
 もう10年も前、東北地方でお酒のディスカウンターが出現。免許制度・標準小売希望価格の名の下に一番最後まで価格破壊を免れていた業界も「ついにそのときが来たか」の思いで、群馬栃木福島と車で駆け足の視察に出かけた。
ビール 途中栃木の大規模なディスカウント店の駐車場で目にした光景は今も目に焼き付いている。20代前半、タイトスカート姿でしかもハイヒールを履いた女性がビールの大瓶20本入りのケースを手押し車から自分の車のトランクに持ち上げようと悪戦苦闘しているところだった。当然酒屋の若い衆が手助けするのだろうと思っていると遠くで眺めているだけで駆け付ける様子はさらにない。いたたまれず駆け寄り手を貸してトランクに入れたが、価格が安いというだけでこんな若い女の娘がこんなことまでするのかという驚きと、なるほどディスカウントの安さの秘密は従来の酒屋の御用聞き、配達、集金、掛売りなどのあらゆるサービスを排除し合理化することで成り立つ、つまり店の倉庫で店員が手押し車には載せるが、駐車場ではお客の責任で持ちかえると割り切っている現実に「これはスゴイ」とうならせられた経験がある。
 近年、ディスカウンター同志の価格競争も激しくサービス合戦も熾烈で淘汰される店も出だしたが、従来型の酒飲みに酒売る小売店のダメージは大きく『酒屋殺すにゃ刃物は要らぬビールいくら?と聞けば良い』と言われる程。一見の客に「お宅ビールいくら」と聞かれた途端いくらと答えれば客が納得するのかと心拍数が急増するという酒屋のおやじの告白まであるという。

酒飲み ところで酒屋にとって一番良い客はどんな客かと言えば5人家族。お父さんは会社役員で大のお酒好き、お母さんも大のビール党、3人の子供も大学四年の長男、二年の次男共に大酒飲みで唯一飲まないのは短大一年の娘だけ。黙っていても1ヶ月にビール10ケース、日本酒10本を買ってくれる、しかもニコニコ現金払い。こんな都合の良い客がそう多くいるとは限らないが、この家庭三年もすればお父さん肝臓をいわし、ドクターストップ、お母さんもお父さんの手前酒量激減、長男は就職転勤でいなくなる。かろうじて二男が少し飲むだけとなりかねない。つまり「酒飲み」に酒を売る店は常に酒飲みの需要を求めなければならないし、客から見れば、酒を多く飲む人ほどディスカウントで買う方が有利となる。しかも価格競争を続ける限り大資本に勝てるわけがない。
 そこで、これでも酒屋の端くれの当店の選んだコンセプトは「酒飲まんもんに酒売るみせ」。先程の五人家族の末娘、家では酒を口にしないが、いざコンパとなれば一気飲みの女王と化す。つまりお酒は酒飲みや酒好きに売れるだけでなく、「酒飲む機会」にも酒を売るチャンスがある。
フルーティーな日本酒 今、伏見酒造組合加盟のメーカーは24社。各蔵元自慢の吟醸、大吟醸、新酒と言った100近いレパートリーの中から「きき酒」と称してお猪口三種類で飲み比べてもらうカウンターを始めて6年目。旅先のハイな気分でカウンターに座った日本酒が初めてという娘が、「酒くさい」イメージからかけ離れたワイン感覚のフルーティーな日本酒と出会い、家で待ってるこれまた日本酒を飲んだことのないお姉ちゃんにお土産を買うと言うケースが定着してきだした。
 日本酒は飲んだことがない、あまり好きでない、燗酒のにおいが苦手といった日本嫌いの貴方。一度当店のカウンターに座ってみませんか?当店は酒を飲まない貴方にお酒を売りたいお店なのです。

吟醸酒房油長 奥田雄一郎
当店ホームページ http://www.biwa.ne.jp/~k-okuda