「和菓子-折々のはなし」

 紅葉が秋の中心であるならば、

十一月は京の秋をいたる所でいやと言うほど満喫することが出来る。

菓子店のショーウィンドーも、色彩々の錦の秋をうつした菓子が所狭しと並べられ、来店客の目を楽しませる。
紅葉
 でも本当にモミジが紅葉を見せるのは、晩秋十一月二十日頃、
初冬といっても言い過ぎではない頃だ。調子に乗って秋の菓子を追い続けると、この十一月、冬支度の最中に、うっかり冬の菓子を忘れてしまう。

 十二月十三日は京都では事始めと称し、正月の準備がぼつぼつと始まり、菓子店では正月菓子が店頭に出はじめ、生菓子の見本作りなどが始まるから、なおさらだ。ややもすると、冬の菓子は二週にも満たずに終わってしまう。
やはり、十一月は秋の菓子とともに冬の菓子も揃えておかなければならない。

だが晩秋の紅葉は捨てがたい。


 秋も盛りになると、菓子の上に散らす飾りも紅葉を型で抜いた砂糖菓子になる。
年中同じ菓子でも、その飾りでいつ頃作られたか、およその見当がつくのである。

 紅葉も盛りの頃、お歳を召したご婦人が店に現れ、

『ある人より大きな菓子折を頂戴したが家族も少なく、同じ物では飽きるので、日持ちも良い菓子、生菓子など、いろいろに少しずつ混ぜて同じほどの金額になるよう換えてほしい。』 とのこと。桜

換えさせていただくにあたって、一応は中を改めさせてもらう。
その時菓子の上は、桜が満開であったのだ。

春のものを秋まで持っていた風ではなかったので、おそらくどこからか嫁入りし、離縁されたのだろう。その前、何度嫁入りし、離縁されたのだろうか。

お菓子が我が子のように、いとおしくなる。


 もちろん新しい菓子に交換して差し上げた。つらかっただろう と、こころよく迎え入れたわけだ。

 核家族化といわれて久しく、お菓子の買い方ひとつにも変化が現れてきている。
生菓子の持ち帰りの箱も、二個入、三個入を用意しなければならなくなったし、家族が四人であれば四個、あるいは九個と、数にもこだわらなくなった.。四は「死」にとは言えない。
一個余ったら勿体無いという方が、一理も二理もある。

 こちらも変わってきた。商売をしている以上、物は余計に売れた方が良いに決まっているが、『高額な贈答用の菓子』 を言われた時、『お菓子は山ほどになるので、頂く先様は大丈夫ですか?』 と尋ねる事もある。
店の斜め向かいにお茶の店があり、『お茶とお菓子にして贈っては。』 と勧める。

損をしたような気にはなるけれど、隣近所へのおすそ分けという話もあまり聞かない最近、生きた贈り物をと、つい考えてしまう。

 この頃収穫されるものに、海老芋、聖護院大根、聖護院かぶら等がある。
お酒
 この野菜を写して冬の菓子にするのだが、やはり海老芋は、いもぼうで有名な芋と棒鱈のたき合わせの芋のほう、ぜひ冬の芋棒を食べてほしい。

 聖護院大根は丸大根で、京都のおでんにはこの大根が欠かせないし、おでんはこの大根に尽きる。かぶらはかぶら蒸だ。ぐじ(甘鯛)をフタ物の器に入れ、おろしたかぶらをかけて蒸す。その上に熱い葛あんをかけて食べる。これにあとは伏見の酒があれば、なお良い。至福の時だ。

 聖護院かぶらで漬けられるのが、代表的な京漬物とされる千枚漬で、この時期に求めるのが、保存法が優れてきているとはいえ、一番良いように思う。越の酒 があっても今回は 伏見 だ。 
 
そして、お菓子は 「茶前酒後不可無」 ともいう。 

酔った口に、上手く入れたお茶と季節の生菓子で締めくくるのも良い。

 さぁ帰ろ。 煎餅布団でいい夢′ゥよう。
お茶とお菓子

「御菓子司 鍵善良房 今西知夫」
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