とかく新しい事に挑戦する折は、気合も入り感を働かせつつ臨むのが世の常であります。

しかし手馴れたこととなりますとどうでしょうか?
中華料理店のオープンキッチンで手際よく調理しておられる中華職人の方を見ておりますと、必ず味見をされる方と、味見を一切されない方がおられます。
後者の方の作った物は時により味がまちまちで、美味しい時もあればまずいときもある。
しかし当の本人は気づいておられない。

料理の世界はこういうことが怖いのであります。

つまり慢心から来る油断ですな。

そういうことが存外料理人の一流と二流の分かれ目になっているような気がいたします。

わたくしはと言いますとどのようなことにも全力でということをモットーにしております。



これは幼少の頃の苦い経験から得たことなのですが、小学校の低学年の時わたくしは柔道を習っておりまして、その道場は1.2年クラス、3.4年クラス、5.6年クラスがあり同時に稽古するのですが、自分で言うのもはばかりありますが小学校の1年当時から 強すぎた のであります、わたくしが。
で、1.2年クラスでは稽古にならず、1、2年のときは3.4年生クラスで、3年の時は5.6年クラスで稽古をさせられていました。
まぁ逆説的に言うとその道場自体が弱かったということにもなりますが、ここはわたくしの追憶の通り 強かった ということで進めさせていただきます。

そして毎年秋には道場のクラス別勝ち抜き大会があり、1、2年の時は連続優勝いたしました。
3年の時、多分父親に去年までのことを吹聴したのだと思うのですが、忙しい父が初めて仕事の合間に試合を見に来てくれました。
そういうシュチエーションの中で始まった試合は1.2回戦ともに秒殺の「大外刈り」で一本勝ちし、準々決勝へと進みました。

準々決勝の相手は忘れもしません「土田君」4年生です。
彼は柔道一直線か姿三四郎の見すぎだと思うのですが 「あほの一つ覚え」 のように一本背負いしか技をかけてきません。
しかもタイミングもへったくれもなく、闇雲に一本背負いをし 「やぁー、やぁー、やぁー」 3回気合声と共に力を入れるのが癖なのですが、稽古の時でも一度も決まった試しがなく、わたくしは一本背負いをこらえた後に組み手に向き直った瞬間の大外刈りで勝てると、たかをくくっていました。

いざ試合が始まり引き手を引くと早速一本背負い。
さっと腰を下げ重心を落とし、技を喰わぬようにし 「やぁー、やぁー、やぁー」 といういつもの土田君の掛け声を三つ数えた時、 「よし大外刈り」 と頭に浮かんだ刹那、 「やぁーーー!!」
なんと!4回目の 「やぁー」 があったのです。
まるで詐欺にあったような、「あっ」というわたくしの声と時同じく、ふわっと畳から足が離れ体が軽くなり 「一本!」 なんと背負い投げを喰らってしまいました。

わたくしは戦う以前から油断という敵に負けていたのでありました。
ふと父親を見るともうその場にはおらず、くやしい思いをいたしました。

それ以来何事にも全力でを肝に銘じ、今、調理している時、目をつぶってても出来る手馴れたことほど気を緩めないようにと日々思っております。
それもこれもあの日の4回目の 「やぁー」 のお陰です。

土田君、ありがとう。

あっ思い出した!その日の試合後の稽古で土田君は僕にボコボコに投げ飛ばされて泣いてたね。
ごめんね、土田君。



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